―宮本研究室について―
宮本研究室では、計算化学(コンピュータ化学、コンピュータケミストリー) 手法の開発及びその手法を用いた研究を行っております。さて、計算化学とはどのようなものでしょうか?計算化学とは、その名の通りコンピュータ計算を使った化学です。これを難しく言うと、「理論に基づき分子とその物性、合成法などの化学に関する問題をコンピュータの支援により解決する学問」であり、より広い意味では「物質を原子・分子レベルからコンピュータ上にモデル化し、種々の物性・物理や化学現象の解析や予測を行う学問」と言えます。ちょっと分かりにくいですね。計算化学とはどんなものか、また計算化学を使った研究がどのように役に立つのかなものか、分かりやすく説明してみます。
例えば、"何かいつもと違った料理を作ってみたい。"そう思い立って独自の創作料理に挑戦した経験がある方も多いはず。 もしくは、挑戦をしてみたくても失敗して材料を無駄にしたくなくて、なかなか新しい料理に挑戦できない方。 例えばカレー一つを作るにしても、市販のルーを使うべきか否か、から始まって具の選択、ゆでるのか、炒めるのか…と、その選択肢の広さは想像以上です。 とりあえず鶏肉をゆでて、玉葱と人参を炒めてみた。 味はイマイチ。 やっぱり玉葱の後に鶏肉を加えて一緒にゆでるべきだったかも、と思い返したところでどうにも出来ない。 一人一人が異なる味覚を持っているからには、おいしい料理の作り方は一通りとは限らないのです。 もしそこで、食べ物を無駄にする事無く、自分の理想とする味への効果的な料理法を割り出せる計算機のような物が存在したのなら、料理は苦手と言う人は減るかもしれません。 計算化学の狙いは、新しい料理の方法を事前に予測するように、新しい化学物質を実際に作成する前に最適な候補を予測することなのです。
宮本研究室では、総勢200名近くのメンバーが様々な独自の計算化学プログラムの開発・改良及びそれらプログラムの産業界において重要な課題への応用を精力的に行い、「実践的に役立つ計算化学」を目指して日夜研究を行っています。それらの活動の中心として、「コンビナトリアル計算化学」という独自のコンセプトに基づき科学技術振興調整費新興分野人材養成プロジェクト「日本再生のためのコンビナトリアル計算化学」を精力的に推進するとともに、30社を超える数多くの世界レベルで活躍する企業との間での産学連携を進めております。このような規模で実践的な研究を推進している研究室は日本どころか世界でも他に例を見ません。
今でこそおそらくこの分野では世界一の規模の研究室である宮本研究室はどのようにはじまったのでしょうか? 1992年4月、名古屋大学助手、京都大学助教授を経て、宮本先生が母校東北大学に戻られたのが宮本研究室の始まりです。宮本先生はそれまでの研究期間の多くを実験研究に費やしてきており、また東北大学に戻られた際に入った部屋にもその前の講座が残していった多くの実験設備・装置・薬品類があったそうです。それらをきれいさっぱり捨て去り、わずか一台のワークステーションと数台のパソコン、宮本先生を含めてもわずか9名のメンバーから計算化学による研究を新たに立ち上げられたのです。 当初はやはり数々の困難にも直面したそうですが、難しいことにこそ挑戦すべきという宮本先生の強い信念のもと、多くのメンバーの協力を得て、数多くの計算化学プログラムの開発に成功し、貴金属触媒、トライボロジー、電池、半導体、光学材料、水素吸蔵、生体分子など様々な分子・材料を対象とした実践的なテーマに挑戦し、開発したプログラムの新規材料設計への適用を実現してきたのです。 これまでの継続的な努力によって宮本研究室の研究活動は各方面でも高く評価されるようになってきました。しかしながら我々の挑戦は終わったわけではありません。人間の身体の全てをコンピュータ内にとりこむことや、あらゆる分野の材料に関する知識をコンピュータ内におさめ計算を可能にする事を目指して今もなお初心を忘れることなく日夜たゆまぬ研究活動が続けられているのです。