[CAMMフォーラム発信BusinessResearch 1998.6 2/2]
左写真: 2007年8月、東北放送「シリーズ東北大学100年物語/世界へはばたく女性研究者たち」の取材を受けた際の写真。左端が宮本教授。
新しい場所に移って、3年~5年位は無我夢中に新しい研究に取り組むが、7年から10年以上も同じところにいると、どうしても緊張感、感激が乏しくなりマンネリ傾向になってきてしまう。私自身は、幸い、7~10年毎に移動したので、あまり深刻な経験はないが、その兆候は実感した。最も難しい問題であると思う。特に、1つの分野で相当な成果を蓄積している場合に困難が大きくなる。古い殻を破り、夢中になって新しい自分に挑戦することは結構楽しいものである。
若い研究者にとって問題なのは、陽の当たる分野が好きであることであろう。自分の発表を多くの人が注目し賞賛するとその分野から離れられなくなる。発表しても誰も聞いてくれなかったり、無視されたりするとやる気をなくしてしまう。賛成者、賞賛者の多いような研究は往々にして既に成熟分野となり、大きな発展が期待できない場合が少なくない。むしろ、自分のことを真剣に心配してくれる人でさえ反対するような未開拓の分野に挑戦することが新しい研究の発展、飛躍に繋がる。
何もかも得ようとすると、結局何も得られない。研究面でも同じではないかと考えている。新しい研究をしようとしたら、これまで大切に育んで来たものでも思い切り捨てないと新しいものは掴めない。6年前、東北大学で新しい研究室を開設するとき、古くから残っていた実験装置は、全て捨て去ることから始めた。それにより、触媒、表面・界面の計算化学という新しい領域が開拓dけいることを期待したからである。背水の陣を敷くことにより、困難でも前に進まざるを得ない体制ができたものと考えている。今でも約30人のメンバーでこの分野に賭けている。
研究者にとって新しい研究のブレークスルーが達成できた喜びは大きい。ちょうど、オリンピックの金メダルを受賞した時のような感激であろう。同時にそれが多くの人の幸せに繋がった時には、喜びが倍加する。その意味で、工学研究に私は魅力を感じている。計算化学を飛躍的に発展させて、環境問題、資源エネルギー問題、食料問題、先端材料開発などの解決にもっともっと役立てたい。計算化学を活用する協力な工学体系を構築したい。新しい研究にかける夢は膨らむ。