[石油学会 OCT. 2000 VOL.23 No.10 別冊掲載]
右写真: 2009年1月、宮本研究室主催で開催されたExperiment-Integrated Computational Chemistry on Multiscale Fluidics 国際会議で講演
する宮本教授。
1992年4月、名古屋大学助手、京都大学助教授を経て、母校東北大学教授として、新しい研究室を担当することになった。学生時代から教官時代のほとんどを、多様な固体触媒の実験研究に打ち込んできたが、新しい研究室では、すべての力をコンピュータケミストリーに注ぐために、まず、学生時代の思い出の残る全ての実験装置を廃棄し、そこに、わずか1台のワークステーションと、数台のパソコンを設置した。当時の苦労話は「ドキュメント:新しい研究室をつくる-研究室の運営はこんなに大変」1)に描かれている。 背水の陣で臨めば、意外に活路が開けるもとである。自分の夢に、多くの人が共感と支援をくださった。内にあっては、スタッフ、学生が、期待をはるかに超えた活躍をしてくれた。外にあっては、産官学のリーダーがわれわれの研究を力強く支援してくれた。おかげで、何とか新分野を立ち上げることができたが、これからの夢も大きい。そのいくつかを紹介させていただく。
1年ほど前に、量子化学でPople教授とKohn教授がノーベル化学賞を受賞したが、これは、学問の歴史のなかでも極めて意義あることと思っている。周期表のすべての元素の集合体を高速に精度よく計算できる時代が到来したのである。それにより、理論化学のもつ意義が飛躍的に高まり、化学の方法論が、21世紀を境に、大きく変貌することが予想される。 その結果、例えば、従来は実験的に絨毯(じゅうたん)爆撃的なスクリーニングを行ってきたが、これからは、コンピュータケミストリーを活用する高速スクリーニング手法がターゲットとなる。われわれは、これをコンビナトリアル計算化学と名づけているが、その夢を実現するために、現在よりももっと高速かつ正確な計算手法の開発、種々の新しいソフトウェア開発、専用チップ、実験ロボットなど新しい課題に取り組んでいる。