[石油学会 OCT. 2000 VOL.23 No.10 別冊掲載 2/2]

左写真:
2008年4月、
ディスティングイッシュトプロフェッサー(抜群教授)就任のお祝いとして、 学生の大沼君が主体となって研究室メンバーの寄せ書きを集めました。 その贈呈式の様子です。

 

 

 

 

  化学のような物づくりの分野では、これまでの徒弟主義的な技術伝承が第一とされてきた。そのため、小・中・高校では暗記ものの科目として、ともすると意欲的な学生にその魅力を提供できないでいた。また、大学や企業でも、変化への対応が遅れ気味になる理由になってきたようにも思える。
  化学は知恵である。具体的な物で勝負するとともに、それらのもう多様性をソフトウェアとして実現して、多彩な分野への化学の活用を促進したい。化学は、既存の化学分野だけでなく、電子工学、機械工学、あるいは文系分野にも活用が広がってきている。これまでに、可視化ソフト、トライボロジー用ソフト、分離膜研究用ソフト、結晶成長シミュレーションソフト、リチウム電池シミュレーション、高速量子分子動力学ソフト、吸着シミュレーションソフトなど独自ソフトを開発、そのうちいくつかを市販してきたが、今後はもっともっと多くの有用なソフトを開発してゆきたい。
  よいソフトをつくるには、よい実験研究者との連携が不可欠である。世界的にみても、オリジナルな技術を担う実験グループの最先端課題にコンピュータケミストリーの立場から取り組むことにより、世界中のどこにもないような先進的なソフトウェアが実現される。

 

 

 

 

 第2次世界大戦のあと、日本は戦争放棄、平和主義を世界に宣言し、科学、技術の平和利用に専念、民生用を中心とする技術分野で高い競争力を誇ってきた。また、70年代、80年代にあっては、狭い国土のためいち早く顕在化した公害問題、環境問題に真剣に取り組み、世界に冠たる日本の環境、省資源、省エネルギー技術を育んできた。
 今、世界史的にみて、日本がもっている最大の課題でありチャンスは、高齢化問題である。日本は、男女とも世界最高の長寿を誇っている。ともすると介護、年金問題など負の面が強調されることが多いが、逆に、ここで、世界を先導する日本の新しいオリジナルを構築したい。
  具体的には、これまで、触媒開発などの実験研究に携わって定年を迎えた人には、コンピュータケミストリーに携わっていただき、新しい視点から自分の研究開発内容を深めてほしい。最も詳しくその系のことを知っており、また最も愛着のある人が、コンピュータケミストリーにおいても最も意味のある仕事ができるはずである。現在のコンピュータケミストリーは、全くコンピュータのことを知らない人でも研究を始められるようにできている。また、もともとの理論化学研究者には、若手研究者、学生とともに、それらをぜひ、斬新なソフトウェアとして実現してほしい。コンピュータケミストリーは、このような高齢者活用型技術社会構築への切り札になるはずであると信じて、ここ何年か研究室運営を進めているが、実際に大きな成果をあげている。 

 

 

 

 

 

  コンピュータケミストリーは、化学の長い歴史に比べるとほんの最近の進展なので、まだまだ十分な発展を遂げていないが、その分、解釈から設計への展開がもたらすコンビナトイラル計算化学、高齢化社会への対応、小・中・高校生向けの化学教育など未来への夢は尽きない。

 

 

 

2/2 前のページへ